大阪を拠点に活動するトラックメイカーKinailが、東京で活動するシンガーソングライターSomとコラボ作品“The Wave”をFTZrecordsからリリースした。
今回初コラボとなった二人に、合作に至る経緯や制作の過程、お互いに対して思うことなどを思う存分語っていただいた。
結成について
――今回、Kinailさんの方からSomさんへのラブコールで実現したコラボとのことですが、Somさんとしては今回のような合作は新しい試みなのでしょうか?
Som:そうですね。Som名義で始めてからちょこちょこ一緒にフューチャリングとして作ってるのは何人かいらっしゃってて、その中のお一人がKinailさんのだったという感じですね。もちろん一人でやるのも好きなんですが、誰かと一緒に作るっていうのも楽しそうだなと思っていたので、全然抵抗がなく、むしろ「やってみたい」っていう心意気でしたね。
――Kinailさんからお声が掛かった時点で「この人とやりたい!」となった決め手はどんなところでしたか?
Som:1回インスタのDMをいただいて、そのときにKinailさんの曲をSoundCloudとかで聴かせてもらったんです。私はKinailさんより年上なんですけど、高校生でここまでのアレンジをやってるのはすごいと思ったことと、ジャンル的にも私があんまり作ったことがないというか、踏み入れたことがないジャンルのトラックだったので、逆に面白いんじゃないかなって思って。挑戦的な意味もあって「やってみよう」ってOKさせてもらいました。
――Kinailさん、高校生のときにsomさんに声を掛けたんですか!?
Kinail:そうですね、高校の時に声を掛けさせてもらいました。笑 そのとき結構自分のジャンルとSomさんの楽曲とが掛け離れてたのもあったんですけど、自分の中でももっと新しいジャンルに手を出していけるって思ってたときだったんです。そこでちょうどSomさんの楽曲を聴いて、Somさんのアーティスト性を尊重しつつトラックを作りたいなと思ったんで声掛けさせてもらった感じですね。
――Somさんから返事が返ってきてどんなお気持ちでしたか?
Kinail:正直、嬉しかったですね。笑 初めてこういうカタチでやらせてもらったんで、初めてがSomさんでありがたい限りでした!
Som:私もありがたいです。笑 ありがとうございます!
――それで一緒にやろうってなったとき、曲や歌詞をどういう風に作っていこうみたいなのってスムーズに決まった感じですか?
Kinail:時間はかかりましたけど、スムーズだったと思います。歌詞とかは全部Somさんにお任せして、イメージの共有だけは一緒に会議とかを重ねてやっていきましたね。
今回の曲について
――今回お二人で曲などのデータを「こんなん作ったけどどう?」という感じでやり取りしながら仕上げていったということですよね?
Kinail:そうですね。基本的に僕が何個か送って、Somさんに「これどうですか?」みたいな感じで、いろいろ会議しながら作っていきました。
――制作の一番最初はどんな感じで始めたのでしょうか?
Kinail:トラックに関して、自分は基本的にベースを打ち込んでからメロディーを乗せてっていう感じで作ってるんです。だから今回の楽曲も結構ベースがメインな感じで仕上がってると思います。いろんな海外アーティストとかも使ってる『Splice Sounds』っていう著作権フリーのサブスクリプションサービスがあるんですが、そこから拾ってきたサンプルとかと、自分のmidiで打ち込んだやつとをミックスしたりしてて、今回もそうやってトラックを作ったいきました。
――それを受けてSomさんは、そのメロディーに歌詞を乗せていったのでしょうか?
Som:あ、Kinailさんからはトラックだけが来たので、それにメロディーをまず乗せてみて、あとから歌詞をくっつけていきました。
Kinail:今回の楽曲、多分メロディを乗せにくかったですよね?笑
Som:めちゃめちゃ難しかったです。笑 正直言ってものすごい悩んで……笑
Kinail:自分でも「難しいの作ってもうたなー」って思ってました。笑
Som:「どうやって乗せていこう……」って感じでしたね。何回も作り直したりして。笑
Kinail:いや、本当にありがとうございます。笑
――Kinailさん的には「難しいのを作ろう!」って思ったわけではなくて、Somさんのイメージで作っていったらそうなっちゃったみたいな感じなんですよね?
Kinail:そうですね。割と感覚主義者なので、そういうところが裏目に出ちゃうと言うか……笑
――Somさん的には、最初受け取って聴いた瞬間から「あ、ヤバイ……」って感じだったんですか?
Som:いえ、最初聴いたときは全然そんな感じに思わなかったし、洋楽チックでどちらかといえばシンプルなイメージだったので「可愛い曲になるのかな」って感じだったんですけど、実際メロディ乗せようとしたらどう乗せようか分からなくて。笑 作っていきながら「何でこんな難しいんだろう……」って。笑 「ヤバイ、これはどう乗せよう」っていう。笑
Kinail:自分もメロディーは何個か考えてたんですけど、「やっぱちゃうなあ」っていうのが多すぎて、完全にSomさんに丸投げしちゃった感じではあります。笑
Som:私も「ちゃうなあ……」って思いながら、何度も何度もやり直しました。笑
――だいぶ楽しそうな制作ですね。笑 実際に会わずに全部リモートで完結したのですか?
som:完全にリモートで、最初から最後まで制作しました。
Kinail:時間はかかりましたけど、特に不便だとかなかったですね。データのやり取りもスムーズに出来てたと思うんで、リモートであることに弊害は感じなかったです。
――一回も会わずに出来上がってるんですね……!
Kinail:そうですよ。笑 こうなると、住んでる地域とか全然関係ないなって。こういうやり方やったら違うジャンルのアーティストさんとやるってなった場合でも、結構対応できたり幅広くチャレンジできたりするんじゃないかなと思いましたね。
――可能性が広がりますね!さっき「時間かかった」っておっしゃってましたが、この楽曲に対しては制作期間どれぐらいだったんでしょうか?
Kinail:どれぐらいやったかな……何月くらいから始めましたっけ?
Som:(2020年の)9月ぐらいじゃなかったでしたっけ?結構長いです。笑
――いろいろ作った中の一曲ではなく、この曲にそれだけかかったっていうことですよね?
Kinail:多分お互いの私生活とかのことで一時滞ってたときもあったりしたんですけど、それぐらいはかかりましたね。
――そうやってやり取りしてる中で、お互いにコラボする前と後で、相手に対する印象って変わりましたか?
Kinail:すごいSomさんすごい伸びてるなっていうか、すごいなって思いました。最近メディアとかでもいっぱい取り上げられてて。アーティストとしてすごい有名になりつつあって。
Som:なってないですなってないです。笑 ちょうどそういうタイミングがあったって感じです。笑
――でもKinailさんと組んだことで得た知識や刺激がいい感じに作用してるのかもしれませんし、一概に違うとも言えないかもですよ?Somさんはどうですか?Kinailさんの印象変わりましたか?
Som:いやーどうなんでしょう?もともと一回も顔もお伺いしてないのと、SNSにKinailさん出てこないのでわからないです。笑
――え、一回も顔見てないんですか!?
Som:マジで見てないです。笑 どんな方なのかなってずっと謎めいてます。笑
――まさかの。笑 そういえばFTZrecordsのかっかさんも顔見てないって言ってましたけど……そのブランディング力すごいですね。笑 制作サイドにも見せてないっていうのはなかなかの…笑 somさん見せてよってならないんですか?
Som:絶対出さないので聞かない方がいいかなって思って触れませんでした。笑
――それが魅力だと思えば魅力なんでしょうしね笑
Som:ミステリアスな感じが。笑
結成について
――コラボっていうことで特に意識したことありますか?
Kinail:Somさんは自分とジャンルが全く違うんですよね。自分の作る楽曲ってハイテンポな曲が多かったりするんで、今回みたいな落ち着いたテンポって実は初めてに近くて。そういう面でも、somさんと一緒に楽曲を作らせてもらって新しい挑戦ができて良かったなと思います。制作についても、お互いの魅力がこの楽曲に詰まればいいなと思って作らせてもらいました。変なこだわりを持ってっていうわけではなくて、自由で柔軟にできればいいなと思ってましたね。
――その辺りはSomさんも同じですか?
Som:そうですね。「このトラックに絶対的ないいメロディーを乗せたい」っていう思いだけでやってきました。
――自分への挑戦みたいな
Som:挑戦でしたね。笑
Kinail:そうですね。笑
楽曲に込めた思い
――この曲に込めた想いとか、もしあったらお聞かせください。
Som:そうですね。最初に曲作る前の段階でどういうイメージのっていうすり合わせをしてたんですけど、Kinailさんが以前オーストラリアに留学に行かれてた思い出とか、海辺のイメージとかっていうイメージだってことだったので、そこに私のイメージも盛り込んでいきました。歌詞的には、海辺で大切な人とか友達とか恋人とか……誰でもいいんですけど、何か優しく言葉を投げかけてる、力づけているっていうイメージですね。何か話してるんですけど、そういう深い話をしているっていうイメージで歌詞を作り始めたっていうところがあります。もともとが「ただポップな印象のトラック」だったので、ただただポップ明るい印象の曲ではなく、歌詞にもちゃんと意味があって深みを持たせた曲になればいいなと思って。人に寄り添えるような曲になればいいなと思って、歌詞とメロディーを作りました。
――歌詞だけ読んでても優しい感じがしますもんね。Kinailさんはこの歌詞を貰ってトラックを変更していったんですか?
Kinail:そうですね。最初のデモトラックでは波の音とかが入ってなかったんですけど、歌詞と一緒に「海辺のイメージ」という情報をもらったんで、波の音とか水の音を中心に入れてみようかなと思って入れてみたら、結構空間的な演出が出来たんでそれを採用しましたね。こんな感じで、やりながら細かいところを作っていきました。
――制作の主導権はどっちかが握ってというわけではなくて、お二人で一緒にという形なんですね?
Kinail:そうですね。基本的にお互いの意見を聞きつつ、任せるとこは任せつつみたいな。そんな感じですね。
――そうやって出来上がってこの曲は、例えば今「海辺」や「恋人」っていうお話がありましたけど、どういう時に聴いてほしいですか?
Kinail:基本的に一人で聴いてほしいですね。別に悲しんでるときとかハッピーなときとか関係なくて、落ち着きたいとか音楽が必要なときみたいに、ふとしたときに聴いてほしい。海辺で、という限定的なシーンじゃなく、バリエーション豊富なシチュエーションで聴いてほしいです。どんなところでも寄り添えるんで。多分、この楽曲結構若者を中心に聴かれるとは思いますし、海外の人らにも届けばいいなとは、ちょっとは思います。
聴いている人にメッセージ
――この曲を聴いてくれた人にメッセージをお願いします!
Som:歌詞の中にいろんなメッセージや想いが詰まってて、一番伝えたいのは「大丈夫だよ」っていうところですね。悩みとか心配事とかがある人に、タイトルや歌詞に出てくる通り、ゆったりした波みたいに「私がそばにいるから大丈夫だよ」っていう。そういう、優しく寄り添える曲になっているので。
――確かにそういう感じであれば、いろんなシーンにでもピッタリで、そばに置いておける感じの曲なのかなと思いました。この曲の中でお気に入りのパートとかってあったりしますか?曲の中でもここ好きみたいな。
Som:そうですね。でもやっぱり、サビですかね。このサビが出てくるまでいろんな過程があったので。笑 この曲はサビが二つあるような構成なんですよ。サブサビとメインのサビ。「ゆらり〜」から始まるところがメインのサビにはなると思うんですけど、ここのサビが私は好きですね。
――やっぱり、作るのに苦労したから思い入れがあるんですね。笑
Som:そうですね。笑 「これしかない!」って思いましたし、「もうこれ以上出てこない」と思いながら作った、最終的な結果です。笑
Kinail:自分も同じく、やっぱサビが本当にいいの作ってくださったなと思います。自分では思いつかないメロディーやったんで、すごい「ビビっ」ときましたね。「すごいなー」って思いました。
Som:ありがとうございます!
Kinail:来たとき「わー!」ってなりました。笑
Som:嬉しいです。笑
――このサビが出るまで何個かパターンがあったんですか
Som:あった気がしますね。実際に渡してはないんですけど、自分の中で10個弱ぐらい作った気がします。
――渡してないってことは送ったのはこれだけなんですか?
Som:そうですね。一番最初のイントロみたいになってる英語みたいな歌詞があるんですけど、それが最初渡したサビで、もうちょっと作ってみようってなって2個目のサビがこの「ゆらり〜」から始まるサビなんです。けど、まさかのKinailさんが「どっちも使えますよ!」って言ってきたので、すごい謎の発想って思って。笑
Kinail:採用ですよそんなの。笑
Som:それが私の斜め上でした。笑
Kinail:いや、せっかく作ってくださったのもあるけど、どっちも良かったですし。笑 だからこれは使わないといけないなって。でも、結果として良い構成になったと思います。サビを送ってくださったsomさんに感謝です。ありがとうございます!
Som:ありがとうございます。笑
――お互いの想像を超えて予想の斜め上っていうのは、だいぶいいコンビネーションですね。
Som:予想をどんどん超えていく感じで、回収しきれないです。笑 しんどいしんどい。笑
今後の活動や展望
――二人でこうやっていい曲が出来上がったわけですが、今後もまた二人で曲を作っていくことになるんでしょうか?
Kinail:今のところはないですけど、できればまた一緒にやりたいなと思います。自分の中で。
Som:そうですね。全然予定はしてないですけど、またどっかでタイミングが合えば!今回も挑戦だったんですけど、次回もたぶん挑戦になると思うんで、お互いの斜め上を行きながら作っていきたいと思います!笑
――なるほど!またタイミングが合えば、このコラボが実現するかもしれないということを楽しみに、今回のインタビューはここで終わろうと思います。ありがとうございました!
Kinail、Som:ありがとうございました!
文: 倉田航仁郎、編集: FTZine編集部